あのとき、2021年だったら・・・
これまでの自分のキャリアを振り返ってみると、2020年のコロナ禍をきっかけに急転直下でリモートワーク、つまり会社のオフィスに行かない働き方がメジャーになったいまだからこそ、思い返される苦い経験がいくつかあります。
2012年から2013年にかけて。
西新宿の高層ビルの25Fで東日本大震災に遭遇した自分は「縁もゆかりもないここ(トーキョー)で死ぬ人生なんて納得できない!」と気づいて、京都に帰ることを決意します。
ただ、憧れていた会社に転職して1年足らずだったことに後ろ髪を引かれた自分は、なんとかして京都から東京へ経済的負担を最小限にして出勤できる方法を見出すことに努力したのでした。そして資金が潰えて断念。
・・・今思えば何と戦っていたんだろう。というか、住まいが京都でも毎週東京来てるときに地震が来たらアウトやん。
それだけ一介の社員がリモートワークを主張することが難しかった、当時の社会の常識や企業カルチャーに明らかに反目していた、ということなのでしょう。
時は進んで2018年ごろ。
業務委託でお手伝いしていた友人のスタートアップ企業に、フルタイムのメンバーとして加えてもらうチャンスを理由あって断念しました。事業領域も成長ポテンシャルも抜群だし(実際今もいい感じで伸びてる)、友人とともに小さいチームを大きくしていく魅力的な機会だったのですが、ひとつ自分には受け入れられないカルチャーがあったのです。
それは「ランチタイムはみんなが同じ時間にオフィスの同じテーブルを囲む」こと。
自分にとって「食べる」ことは癒やしであり救いであり、いつ何を誰と食べるか(基本的にはひとりがよい)を自分で選択できることは、生きることの基本的権利です。
生まれたてのスタートアップが強くなるにはメンバー同士のエンゲージメントが大事であり、ランチをそのための時間に充てる合理性は頭では理解できます。ただ、好きな場所で好きなものを食べることを諦めて、妥協しかないコンビニ弁当で空腹を満たす生活なんて到底続けられない!と本気で感じてた自分。さりとて、それを真顔で理由として伝えることもできずに、せっかくのご縁を手放したのでした。
・・・リモートワークに移行してメンバーそれぞれのライフスタイルに寄り添い非同期コミュニケーションが主体になった今なら、そんなカルチャーギャップは回避できたのかも。
「社会=新卒で入った会社」だった2000年代。
入稿前には連日の徹夜もいとわないバイタリティ溢れる先輩たちの背中を見ながら20代の若手であった自分も、会社のため・自分の成長のため・お給料のために、定時後も遅くまでオフィスに残って仕事をしていました。
その頃、自分の身体と精神を蝕んだのはタバコの副流煙でした。職場は公式には分煙化されていたにも関わらず、定時をすぎると座席でタバコを吸いながら仕事をすることが常態化しているチームがいました。
そのチームは制作の大事な工程を管理していてどこよりも献身的に働くひとたちで度々社内で表彰されていたりする「イケてる仕事をしている」集団でした。実際、相談したり話をしたりすると「いい人たち」なのです。タバコのことを除いては。
毎晩全身にタバコの煙を浴びながら働いたこの時期は、仕事がしんどくてストレスが蓄積した時期と重なったこともあり、筆者は心身のバランスを崩し退職。キャリア人生で初めての大きなスランプを味わったのでした。そしてこのメンタル崩壊の原因にタバコがあったことに気づいたのは30代も半ばになってからのことでした。
・・・今、自分が恨むのは、当時のオフィス喫煙者たちの態度でも彼らを注意できなかった上司や同僚でもありません。生命の危険にさらされているのに「仕事は会社のオフィスの自席で行うもの」ということを疑わずにそこから逃げ出さなかった・逃げようという発想にならなかった自分です。無垢な新卒入社社員とは怖いものです。
タバコといえばもうひとつ、2013年のこと。
3度目の転職活動をしていた自分は同じくらい入社の意欲があったA社とB社の内定を前に迷っていました。そんな折に、B社の人事担当者さんは私を呼び出してもろもろの書類を広げてオリエンテーションを始めてA社よりも先んじて入社手続きを進めようとしてきました。
その強引さ自体は中途採用担当者である彼のミッションなのでなんとも思っていません。
ただひとつ、自分の琴線に触れてしまったことは「会社支給のPCにインストールするソフトウェアを自己申告する用紙があってそれへの記入をまだ入社意思を示してもいない自分に求めてきたこと」。
そして、その時の彼の呼気だけではなく全身が、いま喫煙スペースから出てきたばかりなのがバレバレなくらいタバコ臭かったこと。
このときの印象はなかなか強烈で、後日に面談したA社では(2013年時点ですでに)副業OK、PCは支給するけど生活道具でもあるから自分好みに使っていいよ、働く場所も自社にカフェがあるから気分で変えてね、ということを経営者自身(非喫煙者)から聞いて、2つ返事でA社への入社を決めたのでした。
・・・すべての面接をオンラインで行って一度も会わないまま入社して仕事が始まることができる今なら、B社を選んでいたかもしれない。人生ってわからないものです。
そして2021年、現在の会社に転職(出戻り)をして1年が経ちました。
(上記の苦い思い出には含まれていない会社です)
会社のオフィスに顔を出すのは月に1〜2回で(その頻度はむしろ気分転換で楽しい)それ以外は集中できる環境があればどこにいても仕事ができています。
毎日のようにスクリーン越しに顔を合わせる上司や同僚たちがタバコを吸うかどうかは知らないし、吸っていたとしても何の関係もありません。(リモートワークなんだから気分や能率が上がるのなら打ち合わせ中でも遠慮なく吸ったらいいのにと思っています)。
また、本業の勤務時間以外や、そのアイドルタイムで本業以外のプロジェクトに関わることも(なにせ通勤と場所の制約がなくなったので)同僚たちにも自然と受け入れられるようになりつつあります。
このように「物理的な空間を共有しないで働ける」メリットは計り知れないわけで、あのとき、2021年だったら。。と思わずにいられません。
2020年10月に刊行された書籍、「さよならオフィス」は、大企業からスタートアップまで、アフターコロナを見据えた日本国内のオフィスの現在進行系の取り組みを紹介して類型化した、とてもわかりやすい一冊です。働き方先進国である欧米の、もっと言えばGAFAのような遠い企業の事例やカルチャーよりも、自分たちの近い未来の経営課題として「オフィス」とそれを包含する「働き方」を捉えることができます。
本書の末章では「これからも必要とされるオフィスの3つの価値」を挙げているのですが・・・
(後編に続く)