幻像とのつきあい方
AIバンド、悲喜こもごも
話題のロックバンド、The Velvet Sundown の新作アルバムがリリースされましたね。
The Velvet Sundown は、異常なスピードで新作アルバムをSpotifyに投下しているバンドで、すでにフォロワーも100万人を超えています。70年代のサイケデリックロックやフォークの影響を色濃く受けた4人組とされ、レトロでどこか懐かしい(というかいなたい)音作りは個人的に大好物。「そうそう、こういう曲も作って弾いてみたいんよね〜」みたいな。(日本ではあまりウケなさそうだけど)
しかし。2週間ほどの疑惑の期間を経て、The Velvet Sundown は生身のバンドではなく、楽曲もビジュアルも、すべてがAIが生成した「デジタルデータしかない」存在だったことがオフィシャルに判明。(Xでは偽物のプロモーターまで登場してた)
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この騒動、そもそも楽曲以外の部分で「AI臭さ」を(それはいくらでも誤魔化せるというのに)隠していなかったので、裏の裏をかいて人間が手作りでAIバンド風の音やビジュアルを演じていたら現代アート的な皮肉が効いていて面白いな、とすら思ってたんだけど、残念ながらそうではありませんでした。
いつか誰かがやること。それなら、既存のビジネス(Spotify)のルールが変わらないうちに一儲けしよう、という狙いが見え隠れしているのがいささか残念だった。
ひとくちにAIで楽曲を作る、といってもいろいろな手法や「程度」があります。
1. 楽器もマイクも一切使わずにAIで楽曲と音源を作成、AIが生成した音声データをそのまま公開する
2. AIが生成した楽曲と音源をそのまま使うが、パートごとのデータで調整やミックスダウンだけは人間がやる(The Velvet Sundown のケースはこれだったと思われる)
3. 歌詞は人がつくる
4. AIが生成した楽曲を元に、一部〜すべてのパートは人間が演奏する。その際にAIの原曲に忠実に演奏することもあれば、アレンジすることもある
5. AIが生成した楽曲をインスピレーションに、人間が作曲して演奏する
6. 人間が演奏した楽曲を「参考・ペルソナ 1*」としてAIに与えて、楽曲を生成させる
作詞/作曲/演奏/サウンドエンジニアリング、がごっちゃになっているから分かりづらいですが、少しでもAIを使っていたら「AIが作った(非人間的な)曲だ」と断罪できるものではない、という感覚は共有できるでしょうか?
なぜこんな細かいことを書くのかというと、かくいう自分が 2023年末の suno.ai の登場をきっかけにAIを使ったパーソナルな楽曲づくりを趣味として楽しんでいるから。(上記の4のやり方です 2 )
さて、The Velvet Sundown は(少なくとも自分のインタレストグラフの範囲では)物議を醸しています。そして、このようなAI創作に関する議論や批評や願望に触れることは、今この時代しか味わえない体験とも言えるでしょう。
🎸僕らはLED ZEPPELINの新曲に抗えるのか?:THE VELVET SUNDOWNという虚構のバンド|夏目進平
もはや、AI が作った曲を自分の曲だと言ってちゃんと演奏するような人たちは、まだかわいらしいと言われるような時代が来るだろう。
うむ🫤
🎸 Spotify帝国の陰謀論—AIバンドと音楽業界「リアルタイム崩壊」|アノネソラ
『The Velvet Sundown』の代表曲『Dust on the Wind』をバイリンガルでカバーし、日本語で歌詞の意味を掴みやすくしたMVも作ったので、まだみてない方は、よろしければお楽しみください。
こういうことやってみたくなりますよね😌
趣味で創作する範疇であればともかく、市場には慣習やルールがあります。そこで、Grokさん(こういうときは)に整理してもらった「AI生成バンドの楽曲が人間の楽曲と同一マーケットで混在すると、起こる問題」について、考えてみました。
1. 収益機会の奪取
AI楽曲は低コストで大量生産でき、アルゴリズムで優先されやすいため、人間アーティストのストリーミング収益やライブ機会を減少させる。
寡作か多作かが、そのバンドの良し悪しを決めるわけではないので、多作によって「知られる機会」が有利に働くアルゴリズムであれば、それはAI楽曲の到来によって見直されたほうがいいですね。
2. 真正性の欠如
AIバンドが実在を装うと、リスナーが誤認し、音楽への信頼やアーティストとの感情的つながりが損なわれる。
実在しようがしまいが、バンドはアイドル(偶像)だから問題ではない。アルバムと違うインプロビゼーションやゲストミュージシャンとのコラボレーションが展開されるAIバンドによる一期一会のライブがあったとき、それを自分は楽しめるでしょう。
3. 創造性の均質化
AIは流行に最適化された楽曲を生成し、独自性や文化的背景を持つ人間の音楽の価値を薄め、多様性を損なう。
AIを新しい(なんでもできる)楽器のひとつだと考えたら、その組み合わせの分だけ流行はむしろ、多様になる可能性もあるのでは。
4. 著作権と倫理的問題
AI楽曲の学習データが不明確で著作権侵害のリスクがあり、偽装行為が消費者保護法に抵触する可能性がある。
これは楽曲生成AIに限った課題ではないから、プラットフォーム側にはいずれ落とし所ができると楽観。ただ、生成AIの利用者がつくる「ペルソナ」をどこまで取り締まれるかはちょっと心配。
5. アーティストのキャリア阻害
AIの即席楽曲が市場を席巻すると、人間アーティストのプロモーション機会やキャリア形成が困難になり、参入意欲が低下する。
いまある市場はそれほど席巻しないのでは。AIの即席楽曲を楽しむシーンは、新たにできる(他の余暇時間に入り込む)と考えています。その結果、人間バンドの演奏の価値は上がるという希望的観測。
6. アルゴリズムの偏向
プラットフォームのレコメンドシステムがAI楽曲を優先し、人間アーティストの楽曲が埋もれ、市場の公平性が損なわれる。
公平性が失われて、最初に困るのは人間ミュージシャン、次に困るのがリスナー、その結果新しいルールを備えた別のプラットフォームが台頭、というような淘汰が起こることを想像(つまり健全)。
こういうとき、芸術的な評価、つまり、リスナーが価値を見いだせるものかどうかという議論と、ビジネス倫理に関する批判は、分けて考えないといけないですよね。
The Velvet Sundown が提示したように、生成AIの楽曲によってこれから、ビジネス倫理的にフェアじゃない状況が起こることは、間違いない。でも、今までだって全然フェアじゃないわけで、少なくないミュージシャンによる、反アルゴリズム、または、プラットフォームに依存しない生き残り方の模索が続いています。
そういう状況でなので、例えると、「コロナ禍が「会社に行く」という古い風習を信じられないくらい短期間で否定してくれた」ようなことが、AI楽曲の登場によって起こってほしいという淡い期待があります。
あと、忘れてはならないのが、生成AI(というかテクノロジー全般)のおかげで、創作・表現におけるつくり手と受け手の距離が近くなったり、交わったり、行ったり来たりすることができるようになりつつあること。
自分のように生成AIをきっかけにがっつりと作り手に回るほどヒマ、もとい割けるエネルギーはなくとも、AIをクリエイティブに使いこなすクリエイターの制作プロセスを理解したり味わったりするは、新しい知的な娯楽と言えるのではないでしょうか?
最近触れて新しく感じた、文学 × 生成AIの例を挙げます。
🖋️『影の雨』プロンプト
🖋️ 4,000字の小説に20万字のプロンプト。九段理江がAIとの共作で感じた葛藤とは|95%をAIで書いた短編小説『影の雨』の舞台裏
九段:もちろん楽しめました。でも、AIを使って小説を書くことを一番楽しめるのは、むしろ「小説を一度も書いたことがない人」なのではないかと思います。私は自分なりの小説の書き方も、理想の小説のイメージも大体わかっているので、いちから自分で書いた方がやっぱり早い。自分で自由に書いてはいけないストレスは強く感じました。でもその経験を通してたくさんの気づきがあったので、すごく意義深い挑戦だったと思います。
🖋️【全編公開!】もうダメだ! AIの小説が上手すぎる――現代作家3人の緊急会議|笠井康平+樋口恭介+山本浩貴(いぬのせなか座)|いぬのせなか座
どうでもいいものを読もうとするから大変なのであって、言語芸術を支える土台にはほとんど影響がない。それをみんなが分かったうえで、AIが書いたものはAIが読み、人間は読まない。そういう仕組みを作ってもなお、明らかな「外れ値」だけは読むに値する。そういう仕組みが必要だと思いますね。
自分は、文学については何かを語るほどのバックグランドを持ち合わせていないものの、読み手として、AIとの制作の過程や背景を作品そのもの以上に、知的な娯楽としておおいに楽しむことができました。昨今のネタバレ、考察がセットになったカルチャーとも相性が良さそう。
繰り返しになりますが、芸術的な評価に対する批判とビジネス倫理に関する批判は分けて考えないといけません。自分は生成AIの関与する楽曲について、前者については肯定的で、後者については課題の噴出をきっかけにいちはやく、ゲームチェンジが起きてほしい、というスタンスです。今は。
・・・と書くと、人の革新を信じているようにも見えますが、一方で、AIがデータとして生成する「出音」を受け入れられず、自分で弾いて自分で歌う3「手触りのある音作り」に強くこだわっているあたり、いずれ古い側の価値観の人間になるんでしょうね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
こちらは、お口直しにどうぞ🍬
追記)The Velvet Sundown の新作「Paper Sun Rebellion」と同じ日に、別のアカウントが 「Paper Sun Rebellion II」を出してきた模様。「AIバンドならやりかねない」と多くの人が思うことでしょう。これは情報戦だw
ペルソナ(Personas)機能は、Suno.aiで生成した楽曲から「お気に入りのボーカルやスタイル、雰囲気」を保存し、次回以降の制作でも同じサウンドや声で楽曲を作成できる機能
作曲はAI(この曲はReffusion)ですが、公開しているアウトプットの楽曲にはAIサービスの音は残されていません。自分の目的(課題)は「ほかの誰のものでもない楽曲を自分で演奏して、ブログや写真のような自分の「表現」としてアウトプットしたい」でした。
音楽理論やメロディ作成技術(やセンス)を習得しなければたどり着けなかった、「自作曲の演奏、公開」を生成AIがショートカットしてくれたので、一抹の後ろめたさを感じながら「作曲:Refusion.」 と明示したうえで楽曲作成を楽しんでいます。
正確に言うとドラムはDAWのAIドラマーなので、これもいつか自分で叩けるようになりたい。そのためには、田舎に広い家を・・・


