ーー実況:
自陣コーナーキックの競り合いからこぼれ球を持ち出したトミヤス・・・左サイドから対角線状に大きく弧を描くクロスに・・・クボが抜け出しました!
独特のリズム感のドリブルです・・・カバーに入ったデ・ケテラーレとの間合いを保ちつつ、中央に戻したパス・・・ここに走り込んできたのは・・・大ベテランのモリタ!
ーー解説:
おお!どこにそんなスタミナが残ってたんでしょう。
ーー実況:
・・・シュートはキーパーの指を掠めてゴールの右隅に・・・入りました!!
ーー解説:
ただ、先程のクボの抜け出しはギリギリでオフサイドかもしれませんねえ。
(しばし沈黙・・・のあと大歓声)
ーー実況:
AIレフェリーの判定は・・・オフサイドなし!ニッポン、土壇場で同点に追いつきました!!ホンダ監督が誰よりも吠えていますw
ーー解説:
モリタはこのスタジアム、スポルティングで長く活躍したんですよ。現地ポルトガルのサポーターの熱狂もすごいですね!
試合はいま、80分を経過したところだ。
2030年 サッカーワールドカップ、決勝トーナメントベスト16 ベルギー対日本をアキラはリビングで観戦してる。100周年となるこのワールドカップは、モロッコ、ポルトガル、スペインの3カ国+加えて南米3か国で試合が行われている。
アキラはITスタートアップで働いていた頃、この試合が行われているリスボンに行ったことがある1。スタジアムも、町並みも、すべてが懐かしい。もう6年も前になるのか。
まだ、レフェリーは人間で、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)がそのサポートをしていた時代だ。
いまのような人間の目では判断できない、オフサイドラインギリギリの飛び出しでは、そのたびに試合が中断され、主審がピッチ脇にあるモニターでリプレイを確認していた。
ゴール直後に狂喜乱舞した選手やサポーターが、そのゴールを取り消されて見せる遣る方無い表情。
2024年のユーロでは、3回もの幻のゴールを生み出したベルギー代表ルカクが狼狽する姿2は嘲笑の的となったが、時代が時代なら彼はディフェンダーとの駆け引きを制したヒーローにもなれたし、神の手byマラドーナはあきれた詐欺行為であったかもしれない。
「正しさ」と「エンタテイメント」論争をめぐったここ数年のサッカーの変化をアキラは思い返していた。
VARの確認による試合の中断がサッカーという競技を退屈なものにして、緩やかにファン離れが始まり、これでは(興行的に)まずい、2026年から導入されたのがAIレフェリーである。
AIレフェリーは、事実「だけ」で判断しない。判定対象となったシーンの試合状況、選手たちのコンディション、ボールの運動エネルギーに加えて、過去のビデオが残っているあらゆる公式試合の記録から学習したAIが、総合的にファウルプレーか正当なプレイかをジャッジする。
大げさなシミュレーションや負傷「しぐさ」による中断も、選手のバイタル・メンタルデータをAIレフェリーが把握できるようになったことを境になくなった。反スポーツマンシップで子どもの教育に悪い「マリーシア」がなくなったわけだが、オールドサッカーファンとしてはさみしい気持ちもある。
過去のあらゆる蓄積から総合的に瞬時にジャッジする人間離れしたAIレフェリーに選手や監督やサポーターがその場の勢いでイチャモンをつけても勝ち目はない。かくして醜いロスタイムはなくなり、サッカーの試合もスマートになった。(試合後に、グチグチ言うコメンテーターはプロレス的な”文化”として残っているが)
心憎いのが、AIレフェリーのジャッジが表示されるまでの「間」だ。AIなのだから瞬時にシロクロはついているのだが、試合展開や会場の空気を計算して、すぐに旗を上げることも、10秒近くひっぱることもある。こうして2030年のサッカーでは審判がゲームの面白さをスポイルするどころか、全世界を熱狂させるために一役買っているというわけだ。
ちなみにこのAIレフェリーは、フーリー社のAIが採用されている。CEOのギャビン・ベルソンをはじめ、サッカーには興味のない「ザ・アメリカ」なメガテック企業がメンテナンスするAIモデルは、いまのところ、一定の中立性があると考えられているようだ。
ーー実況:
追いついたニッポンですが、少しでも有利な状況を作って90分を終えたいところです。
ーー解説:
この引き分けのシチュエーションとさきほどの高速カウンター、2018年のロシア大会を否が応でも思い出しますね。
ーー実況:
あのときは、後半48分、ホンダ選手のCKをキャッチしたクルトワから始まったベルギーの高速カウンターで日本は涙を飲みました。
ーー解説:
AIレフェリーどころか、VARも導入されていなかった時代ですね。
ーー実況:
そのホンダ選手が監督としてサッカー界に戻ってきたことは意外でした。
ーー解説:
はい。サッカー選手の「実質」引退後に、実業家に身を転じて数々のスタートアップ投資で成果を出していただけに。
ーー実況:
さて、90分タイムアップ。試合終了です!スコアは2対2のドロー。・・・ニッポン守り切りました!・・・AIレフェリーによる判定の発表をしばしお待ちください。
AIレフェリー導入のフェーズ2として、ユーロ2028から段階的にサッカーから延長戦がなくなっていった。90分で決着がつかなければ、AIレフェリーの「判定」によって勝者が決められる。具体的には90分の実データを元に「計算上の延長戦」がシミュレーションされた結果「だけ」が判定としてアウトプットされる。自力に勝るチームやシュート数が多かったチームが勝つとは限らず、ジャイアントキリングも起こりうることはリアルな延長戦と同じだ。
最大の違いは、必ず90分で試合が終わること。これは時差のあるグローバルな放映や編集に都合が良い。選手たちが出し惜しみなく全精力を90分につぎ込むことで試合はエキサイティングになりしょっぱい試合は少なくなった(はずだ)。
AIによる勝者判定は意外に選手たちからも歓迎されている。酷使によって負傷するリスクが減るからだ。人間のレフェリーが決めることは信用できないが、AIならドライに諦めもつくらしい。
「お父さん、まだ、塩サッカーで消耗してるの?」
息子のアキヒコが帰ってきた。
「いま終わったとこや。日本はベルギーと互角にやり合って引き分け。もうすぐAI判定が出るで」
「ふーん、で、「俺のソース」はどんな感じやった?」
アキヒコは現実のサッカー大会にはあまり興味がないかわりに、イマジナリーフットボールにハマっている。
イマジナリーフットボールは、メタバース世界で繰り広げられるバーチャルサッカーリーグ。アキラが見ているサッカーとは真逆で、選手がAIでレフェリーが人間だ。だから明らかなファールで笛を吹かなかったり、きな臭いジャッジをしたり。良くも悪くもレフェリーが試合を作るのだ。試合はハーフタイムなしの30分とコンパクトだが選手は倍速で動く。決着がつかなければ延長戦もPK戦もある。
結果、退屈な試合が生まれにくく、年間試合数も3倍。エンタメとしての完成度は「塩サッカー」と比べるべくもない。
イマジナリーフットボールというのは、この種のエンタメの総称で複数のブランドが存在する。プレイステーションにウイイレとFIFAがあったように。
現実のサッカーとイマジナリーフットボールは持ちつ持たれつの関係に落ち着いた。サッカー選手は個人で任意のブランドと契約をすることができる。そうすると彼/彼女の全てのデータを公式な「ソース」として学習した実名のAI選手をメタバースに登場させることができる。選手は莫大なフィーを得る代わりに、メタバース上で自分の分身がどれだけミスをしようが、ライバルチームに売られようが、文句を言うことはできない。
今では、現実のサッカー選手としての収入を超えるAIソースフィーを得る選手も珍しくなくなった。それだけエンタメ性に優れたイマジナリーフットボールの市場が伸びているのだ。
中学生のアキヒコにとってソース化されたIP3はごく当たり前の存在だ。
彼がお気に入りのバンドはKISS。アキラの親世代のバンドだが、生身のミュージシャンとして2023年に引退宣言したのちは、KISSという概念をAIによって生かし続けてライブ活動や創作活動を行っている現役のIPだ。引退した「ソース」のデータがアップデートされることはないため、メイクを解いた爺さんたちがいまどうしているかは、アキヒコの関心外だ。
サッカー選手もソース化されることによって時代や国籍を超えたドリームチームや地域リーグが形成されてとんでもない多様性を生み出しているらしい。
「そやけど、父さんはリアルな人間のパフォーマンスを楽しみたいわ」
「お父さんかってソースの正史三国志よりも吉川三国志とか北方三国志が、中2のころから好きやろ?」
「・・・😌」
ーー実況:
・・・AIレフェリーがピッチに戻ってきました。この試合の判定の結果は・・・日本、日本の勝利!ニッポンが12年ぶりにベルギーに雪辱を果たしてベスト8進出です!!
ーー解説:
日本人の目から見ても勝算は高くなかったと思いますが、よくぞAIレフェリーは勝たせてくれました!ホンダは有言実行、監督としてニッポンにワールドカップをもたらせてくれるかもしれませんね。
「あ、お父さん、こんなニュースが」
2022年、現サッカー日本代表監督ホンダ氏のファンドがのちにフーリー社に買収されることになるスタートアップに投資。AIレフェリーとの関係性に疑問符
「やれやれ、これはしばらく揉めるなあ」
ーー実況:
それでは、今大会のテーマソング、 オアシスの新曲「(What is)Humanity?」4を聞きながら放送を終了します。
相変わらず犬猿の仲であるギャラガー兄弟が「ソース化」することによって20年ぶりの再結成が実現されました。
では、準々決勝で、またお会いしましょう。
※ストーリーも、画像も、曲も、全部フィクションです。
これは実話、実際に行ったのは2019年。リスボンよかったです。
はじめての海外カンファレンスにもちょうどよかったリスボンWeb Summit 2019レポート : Blog Start All Over
このストーリーの原稿をもとにchatGPTでつくった英詞を使ってSuno AI で生成