テクノロジーの曲がり角(前編)
そろそろ来るかな、AI疲れ
2023年末からはAIを使って楽曲をつくること、去年からはAIを使ってDIYアプリをつくることに没頭するようになって、それぞれの体験の違いがわかってきました。
共通点は時間が溶けること。お金も溶けること。そして情報戦が激しいこと。
異なる点はアプリ作りは進化のゴール(いかに早く、賢く、低コストで人間と遜色ないものをつくれるか)が明確なのに対し、曲作りはAIを使う目的も方向も決まっていないこと。そもそも音楽(を含む芸術表現)はマッチョなものではないし、みんながみんな、明確なKPIを持って音楽をやっているわけでもありませんよね。
それでも音楽「業界」は、AIの力を使った創作物の善悪の線引きをはっきりさせようとしています。これはAI楽曲がスウェーデンのヒットチャートからBANされた事例。
「Jacubは、人間のソングライター、プロデューサー、クリエイターからなるチームによって開発・運営される芸術プロジェクトです。音楽に込められた感情、物語、経験は本物です。なぜならそれらは実在の人々から生まれたものだからです。」
アーティストからのこの回答は、スウェーデンの音楽業界団体IFPIスウェーデンを納得させるには至らず、同団体は本楽曲が国内公式チャートに掲載されることを禁止しました。
🌐 Song banned from Swedish charts for being AI creation
ただそれは、ビジネスとして扱うならば、という話。
次の記事では、ミュージシャンたちがSunoを始めとする生成AIをどうプロダクションに取り込んでいくかの具体的過程がインタビューされています。
Saito:はい。僕はDAWでビートやループを組んで、それをもとにして『Suno』でカバーさせるのが基本的な使い方です。逆に、プロンプトはちょっとしたジャンル指定ぐらいしか入れません。
Lab:ミュージシャンの方が導入するとしたら、この機能が主な使い方になるんじゃないですかね。僕も実装当初からよさげなビートやメロディを「Splice」から拾ってきて、それをオーディオアップロード機能でカバーさせて曲を作っていました。
Lab:他人事で申し訳ないですけど、実際にそれで制作している側の人間としては「頑張ってほしい」という気持ちで見ていました。やっぱり、プロの音楽家がキチンと声明を出して、活用してくれるのは嬉しいです。専門家が使えばもっと作品がよくなるツールだと思うので。
🌐 批判、炎上、和解……RelaxBeatsLab×Hizuru Saitoが語り合う、激動の2025年を経たAI音楽の行方
ノンミュージシャンが、プロンプトだけでそれっぽい曲や勝手カバーソングができてしまうwow体験を喜んでいるのを脇目に、程度の差こそあれ多くのミュージシャンがAIを幾多の新しいツールのひとつとして公平に導入・評価していることが想像できます。
こんな感じで、音楽(をはじめとする芸術表現)はAIが入り込んでも勝ち負け/白黒がつかないから好きです。生産性を上げるというよりも、これまでにない別の可能性を膨らませよう/楽しもうとしている感じですね。この試み、音楽生成AIをめぐる派手なニュースに出てくることはありませんが注目しています。
さて。ソフトウェア開発を最前線とする AIを使ったホワイトワーカーの「仕事」の進化は、何かすごいな、便利だな、そしてヤバいな、と思うことはあっても、それが毎日を楽しく充実させてくれる感じはありません1。
だから自分は「仕事」ではない「しごと」や、遊びのためのものづくりで無邪気にAIと戯れることで、楽しめるバランスを取っているわけですが、これはあくまで個人のライフハック。
AI礼賛と表裏一体で、じわじわと忍び寄るAI疲れ。
そんな空気を先取りするように書かれた、新年のコラムを紹介します。
AI が人間を拡張することは間違いない。だが、その拡張の先で、人間はますます人間的な不完全さを失いつつある。
AI と共に働くとは、技術を使いこなすことではなく、技術によって失われつつある「間」をいかに取り戻すかという問いである。働くとは、考えること。考えるとは、立ち止まること。立ち止まるとは、世界ともう一度、関係を結び直すこと。
🌐 総管理者化社会 ── AIが拡張する「自己経営」の時代|コクヨ|ワークスタイル研究所
AI「仕事」に求められる息苦しさが世間に認識されるのはこれからが本番。
巷でよく言われている「AIが仕事を奪っていくことを恐れずに、人間には人間にしかできない創造的な思考や意思決定をがんばっていこう」という言説だって、楽観的技術決定論を根拠に「うまく働いてもらうこと」を停めないための方便。
だったら本音ベースで、AIを前にしてほとんどの人間は不完全であることを前提に、勇気を持って立ち止まって、みんなで長く働ける方法を考えよう——。
と肩を叩かれる方がうれしいです。
国の成長にも会社の成長にも役に立たないけど、長い目で見たらこのようなケア〈も〉ぼちぼち必要になってくる気がしている2026年です。
・・・ただそれでも、自分は社会に出たときからインターネットを仕事としてきた第一世代であります。進化を止めないテクノロジーから落第せず、失望せず、健やかに長生きをするためには?
後編では 最近手に取った本を紹介しながら、完成・完了を絶対としないテクノロジーとのつきあい方や、成功とはなにかを測るもっと大きな時間のものさしについて考えてみたいと思います。
(後編に続きます)
AI利用で短縮できた時間の分、週休3日にする会社が増えるといいのにと切に願っている

